大脳機能障害と自動車運転の問題

1月9日群馬県前橋市で85歳の認知症男性が運転する自動車に16歳と18歳の女子高校生二人が次々とはねられ,意識不明の重体となる痛ましい事故が起きてしまいました.以前から認知症による高次脳機能障害が原因と考えられる自動車事故が報道されてきましたが,今回もまた同じ事件が起きてしまいました.

このような事件が起きるたびに,「家族は運転させないようにすべきだ」,「運転免許を返納すべきだ」など多くの対策に関する意見が報道されたり,SNSなどでも議論されたりしますが,残念ながらいずれももっともな意見なのですが,その対策効果が今ひとつ弱いように感じます.なぜなら,正常な判断が出来ない状態になっている認知症患者や飲酒状態であれ,あるいは突如意識を消失する痙攣発作をおこすかもしれないてんかん患者であれ,運転免許があってもなくても自動車が目の前にあれば運転してしまう可能性がゼロにならないからです.

日本では認知症患者の診断や治療は脳神経外科や神経内科,あるいは心療内科などでもなされていますが,仮に認知症を正確に診断し家族に自動車運転させないよう指導を徹底したとしても,今回の事件のように家族が目を話した隙きに,運転されてしまえば同じことが起こります.とうと「家族は責任をもって24時間認知症患者から目をはなすべきではない」などという意見も聞こえてきそうですが,現実的には一瞬たりとも目を離さないということは不可能ですし,もしそれを徹底実行しようとすれば,患者も家族も共倒れになるのは時間の問題だと思います.

では,どうすればこのような悲惨な事故を防ぐことが出来るでしょうか?最も現実的なのは現在普及してきた指紋認証や顔認証などの生体認証を運転者認証機能として装備することです.すでに米国アップル社のiphoneでは指紋認証は十分に機能していますし,昨年秋に販売開始されたiphoneXでは顔認証が機能しています.私もどちらの機能も使用しておりますが,その制度は十分に自動車運転認証に導入することが出来る機能だと感じています.

自動車運転者の生体認証機能としてもう一つ追加すべきは,運転者呼気アルコール検知機能の導入です.まず自動車に乗り込むためのドアロック解除のためにスマートキーに呼気アルコール検知機能を設けて一定以下の濃度でなければドアロック解除が出来ない仕組みを設け,さらに運転席のステアリングコラムあたりに呼気検知センサーを設置し,常に呼気アルコール濃度をモニター記録されるようにし,アルコールが検知された場合には生体認証をクリアしたとしても,エンジン始動されない仕組みを設けるべきです.映画の世界ではありますが,2015年公開されたトランスポーター イグニション(エド スクレイン主演)で主人公のエドスクレインが運転するAudi S8 plusにはステアリングに指紋認証機能が搭載され,本人以外はエンジン始動すら出来ない車になっていました.この機能はiphoneなどでもはや現実のものとなっているのです.

これらの生体認証機能を標準化することにより自動車の盗難,飲酒運転事故,そして,認知症患者の自動車運転,癲癇発作による今回のような悲惨な事故を予防できるようになるのではと思います.