糖尿病予防と根本治療のために

札幌禎心会病院 脳神経外科 脳卒中センターでは,5年前から脳卒中患者の糖尿病罹患率が高いことに注目してきました.糖尿病のコントロール(治療によって高血糖状態を制御すること)が不良な患者さんでは,脳卒中の再発リスクが高いため,単純に脳卒中を治療するだけでは不十分であり,脳卒中の原因となる動脈硬化の原因となり進行させる糖尿病を予防しコントロールすることにより,脳卒中再発を予防していかなければなりません.

脳卒中の危険因子(リスクファクター)として,高血圧,糖尿病,高脂血症,心疾患,喫煙,飲酒などがよく言われますが,

1)喫煙と飲酒は生活習慣であり,

2)高血圧は動脈硬化の結果であり,

3)糖尿病は食生活の結果であり,

4)高脂血症は遺伝性家族性高脂血症がある場合を除いては損傷した血管の修復過程を反映しているのであり,

脳卒中の根本原因を説明しているものではないと言うことです.

 

どういうことかというと,

1)喫煙と飲酒は全身の血管内皮に損傷を与える.

2)損傷を受けた動脈内皮にはコレステロールが修復のために沈着し,アテローマと呼ばれるプラークを形成し,細動脈では動脈狭窄が起こりやすくなり,結果高血圧となる.

3)過剰な糖質(炭水化物含む)の摂取により,余剰糖質は代謝の結果脂肪となる.この過程で全身を活性酸素(フリーラジカル)が駆け巡り,血管内皮を損傷する.その結果コレステロール沈着による血管の修復がなされ動脈硬化となる.

4)修復すべき血管が多ければ多いほど肝臓からLDL-コレステロールとして血中にコレステロールが放出されるため,血中LDL-コレステロールが高値となり,逆に末梢組織で使用されずに余るHDL-コレステロールは減少する.

 

脳卒中には,

1)動脈硬化の結果血管が詰まる脳梗塞

2)動脈硬化によって生じる硝子様変性によって脳の細動脈が破綻した結果起きる脳出血

3)脳動脈の動脈硬化の結果血管壁損傷による血管壁の脆弱化によって脳動脈瘤が生じこれが破裂した結果起きるクモ膜下出血

の3つの病態がありますが,

これらの病態は表現型が異なるだけで,根本原因はすべて動脈硬化であるということです.

 

そして,動脈硬化を引き起こす原因は,

「血管内皮に傷をつけること」

なのです.その三大原因が,

1)喫煙

2)過剰な糖質摂取

3)飲酒

なのです.

これらの3つの生活習慣はすべて,糖尿病の危険因子にもなっているということに注目しなければなりません.

1)なぜ喫煙が糖尿病の危険?

現在の紙巻たばこは様々な香りや味の調整のために多くの香り添加物や砂糖水を添加し,銘柄ごとに独特の特徴を出すように作られています.喫煙本数が増えるほど,糖尿病リスクが上昇します.

2)スイーツや炭水化物に偏った食生活により当分摂取は過剰になります.

3)アルコール自体が血管内皮を損傷しますから,飲酒量に依存して血管損傷の程度が悪化します.

 

糖尿病の原因は糖質に依存した食生活であり,これに喫煙,飲酒が加わることにより,動脈硬化を引き起こします.この変化は急激には起こらないので,20-30代ではほとんど脳卒中は起こらないことが多いのですが,このような生活を20年以上積み重ねることにより,40歳を過ぎたあたりから動脈硬化が進行し,高血圧が見られるようになり,同じ頃から糖尿病の症状が現れてきたり,脳卒中にかかったり,狭心症や心筋梗塞を引き起こす人が出てきます.つまり若いときの不摂生が20年-30年経ってからつけとして回ってくるのです.